コンセプトノート

タイトル: 鳥羽 2025: 持続可能な未来のための海洋科学

説明: 「One planet, one ocean: from science to solutions」は、地球と海の相互関連性を強調し、厳密な科学的調査に基づく潜在的な解決策を提案するコンセプトです。変動する今日の地球環境において持続可能な社会を構築するには、人と海の持続可能な共生を実現する必要があります。人々がこれを理解し、そのような社会を構築するには、海洋科学の進歩が不可欠です。そこで、本シンポジウムでは、地球環境変動における海洋の役割の科学的解明、世界的な海洋生物多様性の劣化に対する対策、海産の天然・養殖食品の安定供給の確保、地球温暖化の緩和策と沿岸域の総合的管理に焦点を当て、フランスと日本の研究者をはじめ、各国の研究者と海洋科学に関する知識を交換し、現在の社会を持続可能なものへと変えていく方法を議論することを目的としています。沿岸域の持続可能な発展を目指す取り組みとして、沿岸域の生物生産力や生物多様性を人為的に高める日本発の「里海」の概念が、世界的に注目されています。現在、漁業者、市民、研究者、企業、自治体、国などからなる様々な主体が「里海」の取り組みを始め、様々な経験を積み重ねています。また、持続可能な社会の発展を阻害する要因として、漁村地域で進行している少子高齢化による過疎化と沿岸漁業があまりもうからないために後継者が減っていることがあります。近年、水産庁では、漁村に住む人々が水産物やサービスを提供することで、海に関する地域の自然資源から価値を生み出し、漁村の持続可能な発展のための地域活性化と雇用創出を目指す「海業(うみぎょう)」という取り組みを始めています。そこで、本シンポジウムでは、特に「里海」と「海業」に焦点を当てます。

さらに、このシンポジウムの目的には、UN Decade of Ocean Scienceへの貢献もあります。UN Decade of Ocean Scienceは、2021年から2030年までの10年間、海洋科学から社会の持続可能な開発を促進することを目的とした国際的な枠組みで、そのコンセプトは「The Ocean We Want」です。2025年は、2021年に始まり2030年に終了する国連海洋科学の10年における転換点となり、かつ、フランスのニースでは、中間の総括を行う、「2025年国連海洋会議」がニースで開かれます。今年開催される日仏海洋学シンポジウムは、国連海洋科学の10年にも貢献することが期待されています。

このシンポジウムは鳥羽で開催されます。鳥羽市は志摩市と同様、海女漁で有名です。海女漁の歴史は2000年以上も遡り、鳥羽・志摩地方には海女が採ったアワビを伊勢神宮に奉納した歴史が残っています。海女漁では、アワビやそれ以外の漁獲対象種の生態に合わせて禁漁期間が定められ、アワビやそれ以外の漁獲対象種の資源を乱獲しないように配慮されています。自然と共生できる漁法だからこそ、海女漁は古代から現代まで受け継がれてきたのです。志摩、鳥羽は海産物を朝廷に納めていたことから「御食つ国(みけつくに)」と呼ばれていました。2000年以上も前から人と海が共生してきた社会なのです。この歴史に学び、その知恵を現在と未来に活かすため、第20回日仏海洋学シンポジウムが鳥羽で開催されます。

なお、このシンポジウムでは、海洋学・水産学分野の研究発表のセッションの他、日本の水産研究教育機構(FRA)とフランスの国立海洋開発研究所(Ifremer)との研究協力協定に基づくセッション、第20回日仏海洋学シンポジウムを記念する特別セッション「里海・海業を通じた沿岸地域の持続可能な開発:自然と文化、陸と海のつながりを強化する」を行う予定です。